買ったばかりのスラックスのお尻のポケットや、ジャケット、コートのポケットに手を入れようとしたら、縫いつけられていて手が入らなかった──こんな経験をしたことがある方もいるかと思います。
もしや実用性のない飾りポケットなのか? と思うかもしれませんが、これはしつけ糸によるもので、おもに型崩れを防ぐ目的で付けられています。
このしつけ糸を切るべきか、切らずにそのままにしておくかについての解説です。
しつけ糸の目的
衣服のポケットに付いているしつけ糸の目的は、前述したように型崩れを防ぐためです。
型崩れといっても、配送中や店頭に並べられている状態では衣服に特に強い力が加わるわけではないので、これはおもに試着時にポケットに手を突っ込まれたりしないようにするための対策といえます。
また、ポケットが広がってゴミが入るのを防ぐのにも有効です。
しつけ糸は取るべきか
しつけ糸は基本的には取るべきものです。
いや、“基本的には”などと曖昧にするのはやめます。
しつけ糸は取るべきものです。
なんといっても「しつけ」糸ですから。本縫いではなく取り外すことを前提とした仮縫いのものを、そのままにしておく理由はありません。
そのままにしておいたら当然ポケットにものを入れることができないわけで、衣服の機能を自ら制限するのはもったいないです。
ただしスーツに関しては、ポケットにものを入れないのがスマートな着こなしとされています。
スーツのポケットにものを入れると膨らみが目立ちますし、たとえばスマホやタバコなどを同じポケットに毎日入れ続けると、生地に跡が残ってしまいます。ジーンズならその跡も味として捉えることもできますが、スーツではそうはいきません。
スーツにおいてポケットを使わないことが前提なら、しつけ糸を取らないという選択肢も出てきますが、しつけ糸を取った上でポケットを使わなければいいだけなので、paulie的には取ることをオススメします。
しつけ糸が型崩れ防止といっても、それはあくまでポケットにものを入れたり手を突っ込んだりすることによって起こる型崩れのことなので、ポケットにものを入れなければ問題ありません。しつけ糸が付いているからといって、スーツの寿命が延びるというわけでもないですしね。
まあ体を動かしたときにポケットが広がらないので、ポケットの入り口が緩まないと考えることもできますが、経験上しつけ糸を外したことでポケットが緩んだ状態になったことはないですし、着用しているうちにしつけ糸の左右の部分がほどけてきて、結局外すことになるのではないかと思います。
ゴミ防止に関しても、ホコリが多いところに長いあいだ吊るされているならともかく、日常的に着用するものならその心配も特にする必要はないでしょう。
あとクリーニングに出したときにしつけ糸が付いたままだと、「このお客さん、もしかしてしつけ糸の存在を知らないのか……?」と思われてしまうかもしれません。
まあそんなことを気にしても意味はありませんが(笑
しつけ糸の取り方
しつけ糸には、手縫いで緩く縫われているものと、ミシンでしっかり縫われているものがあります。
どちらの場合も縫い目が交差したり、端から端まで縫われていることはなく、縫い目の端の糸が少し出ていて、簡単に取れるようになっているはずです。
裏側から取ってもいいのですが、簡単なのはポケットの端の縫われていない部分に指を入れて糸を少し浮かせて、ハサミでカットする方法です。1カ所カットするとあとはスルスルと取れることが多いです。
一気に取れそうな感じでも、力を入れてポケットを大きく広げるようにすると生地が傷んでしまうので、ハサミで細かく糸を切って丁寧に取るようにしましょう。
しつけ糸の見分け方
たまにポケットがしっかり縫い閉じられていて、ぱっと見、しつけ糸かどうか判断がつきにくいものがあります。
見分け方として、まずはポケットの左右に指一本入る程度の隙間があるかチェックしてみましょう。隙間があるものはしつけ糸とみてまちがいありません。
指が入らないときは、ポケットを少し強めに広げてみてください。しつけ糸の場合は糸が浮いてくるはずです。
ポケットを引っ張ってもびくともしないときは、服を裏返してポケットを確認してみます。
ポケットの部分の生地が二重になっていて中にものが入るようになっているなら、ポケットの入り口の糸はしつけ糸ということになります。
あと確実とはいえないのですが、生地のほかの部分で使われている糸とは異なる明るい色の糸(白い糸など)が使われている場合はしつけ糸の可能性が高いです。
あとがき
ポケットだけでなく、ジャケットやコートのベント(背中の裾の切れ込み)にもしつけ糸が付いていることがあります。たいてい白い糸で、緩くバツ印の形に縫われています。
これについては取らないという選択肢はないので、絶対に取るようにしましょう。後ろを歩く人に確実に気づかれます。